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鋼鉄の背中

鋼鉄の背中

(7)~(11)

(7)
同時にこれでもか言うほどの高音を発し、今まで以上の加速を試みた。
そのただならぬ様子に、前を走るベルベット、ディーツともにビビったのかスピードを上げている。
だが3周目に入るころには四台が抜きつ抜かれつを繰り返す状態になり、クラスCとは思えないほどの混戦になっていた。観客も今までに無いほど沸いているようだ。
カグル(くそっ、やっぱ手強いぜ!)
ディーツ(いきなりこいつらが腕を上げてくるとはな…。)
ベルベット(こんな腕前なら久しぶりに本気モードになるかも。)
ヨコスケ(今回もさっきのライン取りで行くしかない…。)
四台がそれぞれに独り言を言っているうちにジャンプ地点、失敗は…ない。そのままそろって橋を渡り、俺だけ崖から降りると思ったら三台もそろって降りてきた。起伏の多い場所だけに今まで速かった四台全員のペースが遅くなる。
そこを過ぎ、トンネルに入ったころからさすがにへばってきた。しかし、出来る限り速くここを抜けることは忘れなかった。

(8)
1周目のようなドリフトで一気に駆け抜けて最後の高速セクション。一歩早く加速したつもりだったがすぐに追いつかれ、再びの混戦になった。長い右コーナーを四台は蟹のように並んで駆け抜け、その後も目立った差はつかなかった。アクセルは四台とも全開、エンジンはこれまで経験が無いほど熱い。
さながらゼロヨンのような状態に後ろにいたレーサーは驚き戸惑うばかりだったようだ。
誰が誰を抜こうとしているか分からない中で、四台はゴールラインを切った。が、その後にブレーキをかける事すら彼らは忘れていた。四台はノーブレーキでそのままジャンプし、その先の壁に当たったところでようやく止まった…。

(9)
…気がつくと、景色が変わっていた。控え室でもないようだ。だが、本気で疾駆した証拠なのだろう、エンジンルームには熱気が残っていた。
ブッチ「目ェ覚めたか?ったく、リーダーなんだからしっかりしてくれよ、もう。」
ヨコスケ「……うう、ん?…」
ブッチ「ヨコスケがレース終わっても戻ってこなかったから、どこ行っちまったかってゴロウと探し回ったんだぜ?そしたらオーバーヒートで気ィ失ってたって、レッカーから引っ張って来られてさ…。」
ヨコスケ「そうか…迷惑かけたみたいだな。悪かった。」
ブッチ「ヨコスケが謝る事じゃねえさ。ただ、俺らでスゲェ心配したって、それだけさ。」
ヨコスケ「そっか…。そういえばゴロウは?それに、ここは?」
ブッチ「ここは受付をしたキノコロードのQ'sだ。ゴロウはヨコスケの分の賞金を受け取りに行ってまだ帰ってきてないぜ。20分くらい前に出て行ったな、確か。」
ヨコスケ「じゃあ行ってみるか。本当なら俺が行くものだし。」
ブッチと共にレース場の控え室に向かった。外はもう暗いと思ったが、星と月の光で案外明るい。目印のBARを見つけ、その隣を少し急いで走り抜けた。

(10)
森の中を抜け、あの控え室にさっと駆け込んだ。すると、チョロQ達がごった返している。まだ判定に手間取っているのかどうかは知らないが、ともかく自分で賞金を受け取れるようだ。
部屋の端の方で呼び出しを待っていると、不意に声をかけられた。
ベルベット「やあ、もう走れるようになったんだね。いきなり勝負を仕掛けられたものだから、少し慌てちゃったな。でもあんなハラハラした混戦を体験したのは久しぶりだった…。これからもあんな勝負をしたいってもんだよ。まっ、これからもよろしく。」
ヨコスケ「えっ、はあ。…ところでまだ結果は出ていないようなんだけど?」
ベルベット「どうやら、そうらしいね。まっ、気長に待ってればいつか出るでしょ。それまでゆっくり待つとしようか。」
ヨコスケ「言えてる。じゃあ(ベルベットの)隣で待つか。」
…さっきまで本気で走っていたヤツとは思えない、落ち着き払った口調が印象的だった。これも、上級レーサーの貫禄と言うものなのだろう。

(11)
そうして待っている間、ぼんやりと前いたワールドのことを思った。レッドシティの我が家と街並み、山の上の街グリーンパーク、複雑な絡みを持つイエロータウン&ブラックシティ、ブルーレイクの水底に沈んだ古都……そして過去の時代、住人、レース、街々をつないだ地下迷路。
考えるほど強く鮮やかに蘇ってくる、不思議な思い出ばかりだ。
ヨコスケ(全く……前いた世界への未練が、まだあるとでも言うのか…)




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